
信州大学 農学部 生命・食品科学コース
【大学院 総合理工学研究科 食品生命科学分野】
Kawahara Laboratory 河原研究室
機能性畜産物製造学研究室
皮膚を介して発現する食品の新規機能性探索
皮膚は我々の体の最外層を構成する組織の一つで、外部から侵入しようとする異物を排除するための様々な物理的・化学的防御機能を備えています。また、免疫系の細胞と相互作用してウイルスや細菌などを排除する生物学的な防御機能も知られています。我々は、とくに皮膚の生物学的な防御機能に着目し、これを活用した機能性スキンケア素材の開発に役立つような研究を幅広く行っています。
● ユキノシタ抽出物のTLR2発現抑制を介した皮膚炎症抑制作用
ユキノシタ(Saxifraga stolonifera)日本に広く分布するユキノシタ科ユキノシタ属の常緑多年草です。その葉は食用となるほか、皮膚での消炎作用などの薬効から、「虎耳草(こじそう)」という生薬としても知られています。
我々はユキノシタの抽出物に皮膚における細菌に対する自然免疫センサーとして働いているToll様受容体2(TLR2)の発現とそれを介した炎症性応答に対する顕著な抑制作用があることを明らかにしました。この応答は我々の皮膚の防御反応としては必要なものですが、にきび(尋常性ざ瘡)の原因菌に対する炎症のように、慢性的になると疾患が治りにくくなる原因にもなります。本研究により、ユキノシタ抽出物が皮膚でのTLR2を介した局所的かつ一時的に炎症を沈め、皮膚状態の正常化に寄与する製品開発につながる可能性を持つものです。本研究で得られた成果は、以下の学術論文に紹介されているほか、海外向けプレスリリースでも紹介されました。

ユキノシタ
葉の形や模様がトラの耳に
似ていることから、
「虎耳草」と呼ばれる。
●
Inhibitory effect of strawberry geranium (Saxifraga stolonifera) on Toll-like receptor 2-mediated inflammatory response in human skin keratinocytes
Journal of Ethnopharmacology, 275: 114039. (2021) doi: 10.1016/j.jep.2021.114039.
Kawahara, T., Ito, A., Kiso, A., Kuwamoto, F.
● マルメロ種子抽出物のTARC産生抑制を伴った皮膚炎症抑制作用
マルメロ(Cydonia oblonga)はバラ科の落葉高木で、その果実は香りの良さからジャムや果実酒の原料として用いられています。過去に我々はマルメロ果実の抗アレルギー食品素材としての機能性を見出していましたが、その種子抽出物(QSE: Quince Seed Extract)に、皮膚角化細胞を介したアトピー性皮膚炎モデルマウスにおけるの炎症抑制作用があることを見い出しました。この作用は皮膚炎の原因となる免疫細胞を呼び寄せる働きをもつ「胸腺および活性化調節性ケモカイン(TARC)」の発現抑制を伴ったもので、これまでクインスシードエキスで知られていた保水作用とは全く異なる機能性である可能性が示されました。


●
Effect of the topical application of an ethanol extract of quince seeds on the development of atopic dermatitis-like symptoms in NC/Nga mice
BMC Complementary and Alternative Medicine, 17: 80. (2017) doi: 10.1186/s12906-017-1606-6.
Kawahara, T., Tsutsui, K., Nakanishi, E., Inoue, T., Hamauzu, Y.
ウイルス感染を日常的に予防できる食品の探索と作用機序の解明
新型コロナ禍を経て、日常的にウイルス感染を予防できるような機能性をもつ食品素材とその活性成分となる化合物への期待が高まっています。食品の抗ウイルス作用に関する研究の歴史は長く、ウイルスに対して直接作用を及ぼす素材や、我々の体のウイルスを排除する働きを持った免疫細胞を活性化する素材が多く見いだされてきました。我々は、上記の作用機序と異なる「ウイルスの感染標的となる皮膚角化細胞や粘膜上皮細胞自身のウイルスに対する抵抗力を高める」食品素材の探索を行い、その作用機序を明らかにすることを目指す研究に取り組んでいます。
●スパイス熱水抽出物のインフルエンザウイルス感染抑制作用
インフルエンザウイルスはコロナウイルスと同様に呼吸器から感染するウイルスで、季節性のインフルエンザの原因であるだけでなく、鳥インフルエンザウイルスの変異株は、将来的にヒトにとって大きな脅威になると予測されています。
我々はインフルエンザウイルス感染の予防に役立つスパイス素材の探索を通じて、クミン果実(クミンシード)やカルダモン種子などの熱水抽出物にその作用を見い出してきました。研究が先行しているカルダモンに関しては、感染標的細胞において抗ウイルスタンパク質であるⅠ型インターフェロンの誘導作用が見られることを明らかにし、その作用の一部が主要成分である1,8-cineoleによって示されていることが明らかになりました。さらなる解析の結果、カルダモン抽出物および1,8-cineoleは標的細胞で発現している芳香族炭化水素受容体(AhR)の阻害剤として振る舞い、AhR活性化がもたらすⅠ型インターフェロン抑制作用を解除することで、その作用が示されて可能性が示されました。その作用は細胞内核酸センサー分子のⅠ型インターフェロン誘導経路にもおよび、それらを介した抗ウイルス作用が発揮されていることが明らかになりました。
本研究で得られた成果は、以下の学術論文に紹介されているほか、海外向けプレスリリースでも紹介されました。
●
Inhibitory effect of cardamom seed hot-water extract on human influenza A virus infection
Phytomedicine Plus, 6(13), 100996 (2026) doi: 10.1016/j.phyplu.2026.100996.
Shuvo A.A.S.; Maekawa Y.; Kassai M.; Kawahara T.
●
Type I interferon-enhancing effect of cardamom seed extract via intracellular nucleic acid sensor regulation
Foods, 14(15), 2744-2744 (2025) doi: 10.3390/foods14152744.
Shuvo A.A.S.; Kassai M.; Kawahara T.
●
Inhibitory effects of a hot-water extract of cumin fruit on influenza A virus infection
PLOS One, 20(6), e0326423 (2025) doi: 10.1371/journal.pone.0326423.
Shuvo A.A.S.; Maekawa Y.; Kassai M.; Kawahara T.
● クロモジ熱水抽出物の呼吸器感染症ウイルス抑制作用
クロモジ(Lindera umbellata)はクスノキ科クロモジ属の落葉低木で、その枝が高級爪楊枝や薬用酒の素材として用いられています。
我々はクロモジの枝の熱水抽出物に、インフルエンザウイルスに対する顕著な感染抑制作用があることを報告してきました。その作用はウイルスが標的細胞に感染する初期段階である吸着や侵入過程を阻害するもので、一般的な抗インフルエンザ薬とは作用機序が異なることが明らかになっており、幅広いインフルエンザウイルス株のほか、コロナウイルスOC43株など、全く別の種類のウイルスに対しても有効であることが明らかになりました。

「クロモジ」の枝
生薬(烏樟)としても
知られています。
●乳酸菌S-layerタンパク質のロタウイルス抑制作用
ヒト腸管由来Lactobacillus crispatus KT-11 株はヒト腸管より得られたプロバイオティクス乳酸菌です。本菌株が細胞表面に発現している新規S-layerタンパク質に、下痢症の原因となるロタウイルス下痢症を抑制する作用があることを、ヒト腸管上皮モデルであるCaco-2細胞の培養系ならびに仔マウスに対するウイルスの経口投与評価系により明らかにしました。本研究は特定の乳酸菌のS-Layerタンパク質がロタウイルス感染に有効である可能性を示す初めての報告となりました。
●
Lactobacillus crispatus strain KT-11 S-layer protein inhibits rotavirus infection
Frontiers in Microbiology, 13, 783879 (2022) doi: 10.3389/fmicb.2022.783879.
Kawahara T., Shimozu I., T., Tanaka Y., Tobita K., Tomokiyo M., Watanabe I.
